パズル早解きにおける選手のタイプ分類

 パワプロみたいに可視化できるといいんだけどね

 

ペンシルパズル愛好家の中に、パズル早解きをする人たちがいます。

文字通り、パズルをなるだけ速く解くことを競うもので、世界大会が行われたり、オンライン上でコンテストが開かれたりしています。

(余談ですが、先日まで開かれていたパズル早解きの世界大会で、日本チームは大変優秀な成績を収めました!いくつか部門があるのですが、ある部門で 1 位から 5 位まで独占してしまったり...それだけ日本はパズル大国なわけですね。)

さて、普段パズルを解くときに比べ、早解きをするときは取り組み方が違います。ただ解ければいいのではなく速さが目的なので、それに沿ったやり方になるのです。また思考の過程や得意・不得意も選手によって違ってきます。

今回は、パズル早解きの選手を、思考タイプ・得意ジャンルにより分類します。

 

解き方による分類

まずはパズルの解き方・取り組み方についての分類をします。

これは大きく分けると「理詰め型」「仮定型」の 2 つのパターンがあり、さらに細かくすると以下の 4 パターンになります。

 

・理詰め・論理型

・理詰め・先読み型

・仮定・全検索型

・仮定・引き型

 

理詰め型はその名の通り、理詰めで盤面を埋めていくタイプ。ルールやヒント、すでに置いた記号から一通りに決まる場所を見つけ出し、埋めていくスタイルです。

その中で論理型は、仮定を使わずに勝負します。基本手筋の履行、および大域手筋の発見が得意なタイプです。

一方、先読み型は、論理で困ったときに局所的な仮定を置いて突破していきます。細かい背理法を駆使するタイプですね。

 

仮定型は、論理を追うよりもパターンを試すことを優先して解答盤面を見つけ出すタイプです。時には制約の強いところで n 択、時にはざっくりと引いて微調整します。

その中で全検索型は、盤面のパターンをすべて試して解答を発見しにいきます。膨大なパターンを調べきる根気の強さがあり、また効率のよい場合分けの見つけるのが上手なイメージです。

一方、引き型は、ざっくりと黒マスを置いたり線を引いたりして、盤面成立を目指しにいきます。ヒントの制約を見て大雑把に見当をつけたあとは適当に置いてみて、少し違っても微調整でなんとかします。

 

それぞれに長所・短所があるので、くわしく見ていきます。

 

まずは理詰め・論理型について。「与えられた手がかりをもとに、決まるところを順に埋めていく」というのは、パズルを解く目的そのものであり、早解きという制約が無ければみなこれを目指すでしょう。いわば王道です。

この型の理想は「解き方・解く過程を知っている状態」です。初見であっても、まるで解き方を知っているかような動きができるよう、日々練習することになります。

理想の状態と比べてロスになるのは「論理・手がかりを発見する時間」です。要は手がかりを見つけるまで手が止まる時間がそのままロスになります。論理の難しい問題で手が止まるのも、試行錯誤が必須な問題で論理を見つけだそうとするのも、どちらも大幅ロスになってしまいます。一方で、難しい問題であっても論理を発見できれば、流れるように解答までたどりつけるため、他のタイプのソルバーに対し大きなアドバンテージを得ることができます。

 

先読み型は、手がかり発見のタイムロスをなくすために、手が詰まったとき制約の強そうなところで仮置きを始めます。論理型と違い、常に手を動かそうという思想ですね。理詰めが分からないことを甘受し、それでもその道を軽い試行錯誤で突破してやろうという意図を感じます。そのおかげで難しめの論理でも突破率が上昇し、タイムロスが減ります。

しかしこれにも欠点がいくつかあり、ひとつは仮定をしている時間がロスになることです。仮定せずできるのならまるっと無駄だし、仮置きの結果いい成果が得られなかったら元も子もありません。もうひとつは局所的な仮定では太刀打ちできないケースもあるということです。盤面全体を使う大域手筋が仕組まれている場合、矛盾を導くのに多大な時間を消費してしまう可能性があります。

 

仮定型の理想は「解答盤面を知っている状態」です。過程は関係ない、答えとして成立してればそれでいい、そんな気持ちでしょうか。

その中で全検索型は、多択が残っているとき、理詰め型のように手がかりを探すのではなく、選択肢すべてを試そうとするタイプです。同じ盤面で何問も問題を解くイメージですね。一見非効率に見えますが、その問題のうちほとんどはすぐハタンしてしまうので、実際に処理すべき量は思ったより少ないです。そのため、理詰めで解ける問題なのに、理詰め型が手がかりを探している間に全検索型がゴールしてしまう、なんてことも起こりえます。当然、試行錯誤が必須な問題にも強いです。

しかし、やっぱり他のタイプより多く手を動かさないといけないというのと、検索をするときに場合分けを上手にしないと泥沼化してしまう危険性をはらんでいます。途中のミスによるパターン検索漏れにも注意しないといけません。

なお、理詰め・先読み型と似たタイプですが、全検索型が解答盤面の発見のために仮置きする一方、先読み型はあくまで理詰めの道の発見のために仮置きをする、という違いがあります。

 

そして引き型は、それっぽく記号を置いて解答盤面を成立させようとします。一見当てずっぽうに見えますが、過去の経験から大雑把な形を推定しています。

理詰めを完全に放棄したわけでもなく、明らかな理詰めは考慮した上で引きに行きます。たとえばナンバーリンクで大雑把に線を引いたときに、見えない制約に気付くことがあるでしょう。そんな感じで、まずいろいろ試してみて強い制約を見つけ、それをもとに引ききってしまう、あるいは一気に理詰め型に転向して解き切ってしまうこともあります。また少し違うときの修正力も高く、ハタンに強い印象です。

パズルではそもそもの盤面の解空間が大きいため、慣れないと途方もない時間がかかりますが、一度感覚を身に付ければ魔法のように解空間を泳ぎきってしまいます。しかし、たとえば本来の解と全然違う場所に似ている解があった場合、そこに固執してしまう可能性があります。そのようにやはり確実性はないため、全く解答にたどり着けない危険と隣り合わせではあります。

 

まとめると次の通りです:

・理詰め・論理型

-- 必要な能力 手筋発見力、組合せ的思考力

-- 長所 解き方を発見さえすれば高速に解ける。

-- 短所 解き方を探す時間がそのままロスになる。

 

・理詰め・先読み型

-- 必要な能力 制約の強さの発見力、論理的な思考の整理

-- 長所 難しい理詰めでもそつなくこなせる。

-- 短所 仮置きの時間がそのままロスになる。

 

・仮定・全検索型

-- 必要な能力 場合分け力、正確な処理、根気

-- 長所 どんな問題でも確実に解き切る。うまい場合分けで速度も狙える。

-- 短所 たいていの場合時間がかかる。

 

・仮定・引き型

-- 必要な能力 制約の強さの発見力、修正力、お祈り力

-- 長所 高速に解き切ってしまう可能性を秘めている。

-- 短所 圧倒的な不確実性。

 

早解きの選手が実際にコンテストなどで問題を解くときは、これらの型を使い分けて対処します。ニコリ系で制約が強そうなら論理/先読みを主に使うし、一方ハニーアイランドなど明らかな試行錯誤ゲーと分かれば全検索/引きになります。

また1問の中で型を使い分けることもあります。例えば物体配置系だと、前半は論理的に置ける場所を決め、終盤の配置はなんとなくの引きで処理する、という行動をとるのが最適だったりします。

 

型を使い分けるとはいえ、各人でどの型が得意か/重視しているか、は大きく分かれています。例として自分の場合を述べると、早解きを始めたころは論理型一辺倒でしたが、最近では状況に応じて他の型も使い分けています。意識配分は 40/30/10/20 くらいですかね。

 

 

ジャンルの得手不得手による分類

パズルにはいくつかジャンルがあり、その得意不得意も早解きの選手各々にあります。

以下、ジャンルを列挙してみました。

 

・数字埋め・埋め

・数字埋め・ラテン

・線・ループ

・線・パス

・領域分割

・物体配置・単一配置

・物体配置・複数配置

・塗る

・カジュアル・算数

・カジュアル・図形

・カジュアル・言葉

 

それぞれの説明と、先日行われた Puzzle World Cup 2019 (以下PWCと略記) における具体例を示します。実際に使われた問題については以前の記事で取り扱っているので、気になる方は参考にしてください。なお実際の様子は以下で配信されています:

https://youtu.be/RKZIKjSCvsY

 

数字埋めは、盤面に数字や記号を埋めていくパズルです。その中で「各行各列に指定された数字/記号が1回ずつ入る」というルールがあるのがラテン (方陣)、そうでないものが一般の埋めです。

PWCでは、Kropki, Skyscrapers がラテン、Pyramid, Hakyu, Japanese Sumsが埋めです。Pyramidはカジュアル・算数にも近く、また本来物体配置のMagnets, Domino Catsleは埋めに近いです。

 

線は、文字通り線を引くパズルです。その結果ループを作るならループの分類になり、それ以外はパス系になります。

Geradeweg, Yajilin, Railroadsがループ系、Slant, Hashi, Laserはパス系になります。

 

領域分割は盤面を分割するパズルです。線に近いですが、あくまで分割を主眼としているものがこの分野です。

Compass, Shikaku, Galaxiesがこの分野です。Slant, Dominionも一応分割と扱われていたようですが、微妙なところです。

 

物体配置は、盤面に指定された物体を配置するパズルで、たいてい配置するものが互いに隣接/接触しないという制約が課されています。配置するものが単一か、複数かで一応の場合分けができます。

Magnetsは単一配置、Domino Catsle は複数配置ですがFullに近く、Heyawakeは単一配置、BattleshipsとTetrominoes, Pentopiaは複数配置です。Dominionは分割系ですが、1*2ブロックの単一配置とも見れます。

 

塗るパズルは、盤面に黒マスを配置してそのつながり方に注目するパズルです。

Kurotto, Coral, Aquarium, LITSがこの分野に入ります。Heyawakeも本来ここに入っていそうですが、これは黒マスを配置していることと白マスのつながりを意識するところからきているのかもしれません。

 

最後にカジュアルについて。これはルールの組み合わせで手筋を見出していく通常のペンシルパズルとは違い、間違い探しや迷路・虫食い算やスケルトンのような、単純なルールで探索力を競うタイプのパズルです。細かい場合分けとして、計算メインの算数・図形を扱うもの・言葉を扱うもの、などに分類できます。

PWCでは出題がないですが、Pyramidは算数ジャンルともいえます。

 

さて、早解き選手の得意ジャンルを語る時は、実際にはもう少し大きなくくりとして「数字埋め寄り」か「図形寄り」かに分けられると思います。

数字埋め寄りの人は、数独のように数字/記号を盤面をコツコツ埋めていくのが上手なタイプで、上のジャンルの数字埋めと、配置系の一部、だいたいのカジュアルが得意な感じです。

図形寄りの人は、線や黒マスを大胆に決めていくのが上手タイプで、上のジャンルの線、領域分割、配置系の一部、塗るパズル、が得意な感じです。

 

またも具体例として、個人的な話を追加しておきます。自分は「図形」よりで、線、分割、塗るパズルと (突き抜けたものはないですが) まんべんなく得意です。一方数字埋めは遅めで、配置系も埋めに近いものは苦手としています。カジュアルは算数系はそれなりに得意な一方、純粋な探索力勝負の図形系・言葉系は非常に苦手です。

 

自分だけの最強のパラメタを見つけよう

早解きの選手は、自分の特性や好みによって使う型を決め、また得意なものを伸ばし苦手なものを克服していくことになります。探索力に自信があって物量で押したいなら、理詰め・先読みや仮定・全検索を用いるといいでしょうし、論理的思考に自信があれば理詰め・論理を主に使うことになるでしょう。感覚派ならば仮定・引きを極めるのもいいと思います。

 

上で僕個人のタイプと得意不得意を述べましたが、日本のトップ選手の分類についても触れてみます (敬称略、傍からみた様子なので本人の意識と違うかもしれないですが、ご了承ください)。

 

・枝豆

絶対王者。引きの印象が強いが、実際にはどの型も使いこなすオールラウンダーな印象で、とにかく速い。ジャンルは図形寄り。しかし近年数字埋め力も相当上がっている。

モリー

数独チャンピオン。パズルも相当強い。論理型の王道スタイルで、仮定はあまり使わない。ジャンルは当然数字埋め寄りだが、図形系も問題なくこなす。

・deu

日本が誇る精密機械。基本は理詰め・論理型だが、詰まるとみるや仮定も駆使して正解を導きにいく、全検索の鬼。ジャンルは数字埋め寄り、とくに計算系が異様に速い。

・panista

引き&微調整を使いこなす新時代の解き手。ハマると王者にも勝るスピードをたたき出す。ジャンルは図形寄り。やや数字埋めが苦手な部分がある。

・にょろっぴぃ

なんでもそつなくこなすオールラウンダーで、守備型 (ミスなく安全に解き進める) を自称しているが、攻撃に出た時の一発もある。ジャンルもどちらも強いがやや図形寄り、とくにニコリ系が強い。

 

なんとなく、パズルの特性上「仮定+図形」「理詰め+数字埋め」の人が多い印象ですかね。

このような感じで、強い人の特性を見ることは、観戦のときに楽しめる要素にもなるし、自分が強くなる上での参考になるかもしれません。

 

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その他の属性

解き方と得意ジャンル以外にもいくつか要素があるので紹介。

 

・高難易度型か低難易度型か

コンテストで出題されるパズルは、基本手筋のみで構成される低難易度の問題か、高等手筋をたくさん使う高難易度か、その中間か、といった難易度による分類ができます。それに対応して、早解きの選手についても得意な難易度帯で分類することができます。実際のコンテストにおいては、配点の高低でおおよその難易度の見当がつくため、難易度についての得手不得手は作戦に大きな影響を与えることでしょう。

高配点帯が得意な「重い」解き手は、難しい論理を苦にしないタイプです。相当強い論理型、あるいは長い先読みをもそつなくこなす先読み型、多段仮定もいとわない全検索型、難しい論理なんか関係ないよとあっさり引きにいける引き型、といったところでしょうか。

一方、低配点帯が得意な「軽い」解き手は、基本手筋の履行がとにかく速いタイプです。処理能力にすぐれ、簡単な入口を逃すことがありません。

さて今まで述べてきた解き方のタイプは「難問を対処する際の心得」という面があるため、低配点帯を高速でこなすのはそれらを使う前段階の話ともいえます。解き口の「重い」選手は思考に引っ張られて低配点が遅くなることがあるし、逆に「軽い」選手は超難問に太刀打ちできない可能性があります。なんとなくですが、解き口の重さ軽さは、パズルを「頭で解くか」「身体 (=手、目) で解くか」の違いという気がします。

高配点帯の得意な選手で真っ先に思いつくのはタロタロさんです。長年A代表で戦ってきた貫禄を感じます。一方低配点帯の得意な選手で思いつくのは、にしなんとかさんですかね。低配点帯が多いラウンドで必ず上位に食い込む実力者です。もちろん二人とも、他の難易度帯も強いです。

 

・ミスが多いか少ないか/ミスを恐れるか恐れないか

人間ですからミスはつきものです。パズル早解きですからなるだけ速く解こうとするわけですが、そうすると注意力が落ちてミスが起こりがちです。一方ミスなく安全にいこうとするとスピードが落ちてしまいます。どちらをとるかはいわばプレースタイルの差であって、「ミスを恐れず攻撃的に行く」か「ミスを減らして守備的に行く」かの違いと言えます。

このプレースタイルについては、解き方を使い分けるのと同様に、置かれた状況や実際の問題によって変えることになるでしょう。とはいえやはり、好みは存在すると思います。

枝豆さんは誤答ペナルティの少ないLMIでは攻撃全振りで解きに行きますし、前に紹介した通りにょろっぴぃさんは、守備的な選択で堅実に順位を確保しにいくのがとても上手です。一方、スタイルに関係なく誤答の少ないdeuさんのような人もいます。まさに精密機械ですね。

 

あとは、単問が得意な短距離型か、複数から選んでまとめるのが得意な長距離型か、の差もありますね。